「キッチン」と「台所」のはなし

キッチンのプレゼン中での話し。
長さが、3mオーバーの大きな壁面キッチンの設計でした。

キッチンには、シンク・コンロ・オーブン・調理スペース、家電のほか、様々な収納のスペースを確保する必要があります。
収納としては、お皿・ナベ・フライパン・カトラリー・ボウル・バット・サランラップ・ジップロックなど、また家電としては、食洗器・電子レンジ・炊飯器・ジューサー・ミキサー・コーヒーメーカーなどがあります。
キッチンの大きさや動線を考えながら、使い勝手を加味し、これらを設計に落とし込んでいく作業となります。

調理方法はキッチンの使い手により人それぞれです。親から受け継いだものがあったり、料理教室で教えてもらったアイディアがあったり、また家庭科の時間に先生から教わったものもあるかもしれません。

そのためキッチンのデザインにはセオリー的なものはありますが、最適解はないのです。だからこそキッチンの設計は楽しいとも言えます!


さて、キッチンのプレゼンの話しにもどしますね。

お客さまにキッチンのシンクとコンロの関係について話していると、シンクとコンロの間にしっかりと調理スペースがほしいとご要望がありました。
そのときにキッチンではなく「台所」と言われたのが印象的で、ふと1冊の本を思い出しました。

その本は、料理研究家の有元葉子さん著の「私の住まい考」です。


この本は、有元さんが東京のご自宅・スタジオ・野尻湖の別荘・イタリアの別荘の4つの家づくりについて書いた本です。
料理研究家だけに「家の中で要となるのは、私の場合はキッチンです」と書かれています。

「私の住まい考」の中で、有元さんがキッチンに言及していることでとても興味深かったのは「台所にはまず、「台」が必要です」というシンプルな1文です。

そうなんです。キッチンの話をお客さまとしていたときに出てきた話と同じだったんです!
今回のキッチンは調理スペースは十分確保できているので、問題ないですよと説明しました。その上でもしかして有元さんが書かれていた話でしょうか?と伝えたところ、まさにぴったり、有元さんの話しになりました。打合せ中に、こういうが機会があるととても嬉しいですね!

先週末に「私の住まい考」を再読したところ「キッチンは広ければいいわけでなく、収納も多いければいいわけでない、ということ。キッチンで大事なのは、調理をするスペースである「作業台」と動線です」とありました。
大きいキッチンで、シンク・コンロ・冷蔵庫の位置が離れていると歩く距離が長くなり、使い勝手の悪いキッチンとなってしまうのです。実は広すぎるのも困りものなのです。
セオリーとしては、シンク・コンロ・冷蔵庫を直線で結び、その距離が短いと良いと言われています。そのひとつの形としては、シンク・コンロ・冷蔵庫を三角形の位置すると良くなる傾向となります。これに調理スペース「台」を確保すると、さらに使い勝手が良くなるということだと思います。
収納もコンロに近い部分にナベや調味料がないとその都度取りに行かなければならず、使い勝手が悪くなってしまいます。どこに何を収納するのかということもとても重要です。

我が家のキッチンは残念ながら調理スペースは十分でないため、キッチン背面にあるダイニングテーブルを第2の作業台として使いながら調理をしています。後ろを振りむき、振り返りながら調理を進めるので、歩き回らずに済んでいます。シンク・コンロ(その間に第1の作業スペース)・第2の作業台が三角形となり短い動線で調理ができています。これはこれで便利ですよ。
また、キッチン側にコンセントがないためミキサーを使う際(調理にバーミックスをよく使用します)は、コンセントのあるダイニングテーブル側で調理をしています。キッチンの設計においては、コンセントの位置もとても大事ですね。

このコロナ禍でステイホームしている中で、キッチンにたつ時間が長くなり、改めてキッチンについて(家についてもですが)考えるいい機会になっています。

La table de cuisine

この絵は今回のブログとは関係はないのですが、好きなセザンヌの「台所のテーブル」(オルセー美術館所蔵)を我が家のテーブルと同じスタイルということで引用させてもらいました!!