「エドゥアール・マネ 西洋絵画史の革命」を読んで

三浦篤さんの「エドゥアール・マネ 西洋絵画史の革命」(角川選書)を読みました。

美術館でのアート鑑賞は好きですが、残念ながらアートについてしっかりと勉強したことはなくまずは何か1冊本を読んでみたいと思っていたところ、ラジオで紹介されていたこの本を思わず手に取りました。
19世紀後半にパリで活躍したエドゥアール・マネが見たであろう過去・現在が描かれるとともに、現代へと引き継がれる影響をについて書かれた本です。

以下のピンタレストの引用は、オーギュスト・クレサンジェ『蛇に噛まれた女』の前に展示されるマネの代表作である『オリンピア」(オルセー美術館所蔵)です。写真がカッコいい。



現在行われる印象派の展覧会にマネの絵画があわせて出品されるケースがありますが、マネは印象派などのグループには属していません。マネは当時の本流であるサロン(官展)に出品することを主戦場としていました。落選の常連で、入選したとしてもスキャンダルを巻き起こし批評を浴びることが多かったそうです。印象派には属していなかったが、印象派の画家のモネやドガらと交流がありました。とくにモネとは親交があり、1874年のヴァカンスのときにモネの別荘を訪ね、彼をモデルにした作品を数点描いているようです。
「マネ」と「モネ」は似た名前で混乱してしまいますが、マネ自身もモネのことを自分の名前をかたる売名行為だと思ったそうです。

過去の作品からの参照

この本の中で、マネの代表作である『草上の昼食(水浴)』(オルセー美術館所蔵)をもとにした過去の作品からマネが行った参照と批評がとても興味深かったです。


この絵には4人の人物が描かれていますが、手前の3人の構図を『パリスの審判』という版画(ラファエロのデッサンを元にマルカントニオ・ライモンディが版画化)から参照しています。版画の右下の座っている3人と同じ構図です。

マネ「草上の昼食」の構図の参照先

当時のヨーロッパでは、美術館・個人コレクションの展覧会などに赴けば西洋絵画の名作を見ることが可能になり、また美術全集が発刊され複製版画によっても名画を見ることが可能な時代となっていました。

元絵となった『パリスの審判』の構図はマネの絵だけでなく何世紀にもわたり歴史画の範例となっており、古典的なイタリア絵画を参照するというは当時の画家にとっても当たり前のことだったそうです。ただしマネが先鋭的だっとのは、人物の性別・着衣などは変え、3人の先に人物を1人追加し、あくまで同時代の情景を表現し裸婦像としてのテーマを具現化している点です。

現代アートへの影響

引用と再解釈という点では、マネの絵画は現代まで影響を与えてるというのも興味深ったです。マネの代表作である『フォリー=ベルジェールのバー』(コートールド美術研究所所蔵)をみていきます。


この絵の上段のミラーへの映り込みによりバーが繁盛している様子がわかります。球体のペンダント照明が連続して映り込んでいることから、反対側の壁面上部もミラー貼りとなっていることがわかります。実はこの絵には大きな矛盾があります。真ん中の正面を向いているバーメイドと右側の接客をしている後ろ向きのバーメイドはミラーに映り込んだ同一人物なのですが、現実的にはミラーの映り込みとしては違和感のある構図となっています。
この本では、ベラスケスの名画『ラス・メニーナス』(プラド美術館所蔵)と比較しながら考察されています(マネはマドリッドでこの絵を見ているという手紙も残っているそうです)。

この写真は、写真家ジェフ・ウォールの『ピクチャー・フォー・ウィメン』です。


この写真は、ミラー、女性と撮影する男性の姿勢・目線、カウンター、ペンダント照明と『フォリー=ベルジェールのバー』の共通する要素を用いて再構成されている写真作品となっています(この写真、いいですよね)。
ジェフ・ウォールは、この絵のみならず『草上の昼食』を参照した作品もあります。

マネの絵画とリフォーム計画について

私事ですが、この本を読んでいてマネに親近感を覚える部分がありました。
リフォームの計画においてお客さまとインテリアの雰囲気を共有するために、海外や国内の事例写真を多く使用します。インターネット上にある膨大なイメージの中からお客さまの好みやお部屋にあいそうな写真を選んでいきます。
お打合せしながらその事例写真は数枚に絞り込まれていきます。それらのイメージと全く同じになることはないのですが、かたち・素材・色・ディテールなどの一部をリフォームの計画に取り込み、図面化され工事されることでリフォームが完成します。
これは引用とか参照ではないかもしれませんが、過去の作品のその一部を抜き取りながら再構成するというのは、リフォームの計画においてはなんだか似たようなことをしているという気がしています。また、映画や音楽にも通じる現代的な感覚でもあるような気がしています。


最後にマネの絵画が多く収蔵されているオルセー美術館について。
何度が足を運んだ美術館ですが、最初に訪れた2000年のときに撮影した見つけました。当時はデジカメは出だしたばかりでまだフィルムカメラで撮影していました。
いつかマネの絵画を観に、再訪したいですね。

オルセー美術館(2000年撮影)
オルセー美術館(2000年撮影)